PUSSY WILLOW


 ガンマ団本部――


 ぶく ごぼごぼ しゅー……
 しゅわじゅわ ごぼん ぶくぶく……
「ふっ……ふふふ、新しい薬ができたぎゃ」
 ひからびたカエルやけばけばしい色の毒草、解読不可能な呪符などが吊された、怪しげなディスプレイだらけの部屋で、名古屋ウィローは嗤った。
 彼にとってはこの上なく居心地のよいこの部屋は、しかし他者の足を竦ませるには充分なものである。もっとも、決して他人が立ち入ろうとしないというのは、双方にとって良いことであるかもしれない。
 ボコボコと、常温で沸騰している、めまぐるしく色を変える魔法薬。それを見つめ、彼は満足そうだった。
「完璧だがや。今日は実験台がおれせんで、ちょー捕まえてこなかんわ(今日は実験台がいないから、少しばかり捕まえてこなくちゃな)」
 ウィローは陶製の小さな容器に薬をすくい取って入れた。金属製やガラスでは、薬の種類によっては腐食してしまうので、陶器は欠かせない。
 入れもんはやっぱり瀬戸物に限るぎゃあ。在所の隣だで、せともの祭りにもちゃっと行けるでよー(実家の近郊だから、せともの祭りにもすぐに行けるしな)。
 妙なところで郷土愛に目覚めながら、蓋を手に取る。だが掴み損ねて、蓋は床に転がった。
「にすいことしてまったがや(鈍いことをしてしまったぜ)」
 ウィローは屈み込んで、蓋を拾った。立ち上がろうとした瞬間、
「うわっ」
 自分のマントの裾を踏みつけて、彼は後ろにひっくりかえってしまった。封のされていない薬が顔にふりかかる。この二年ほど先に起こるパプワ島でのコウモリ変身騒ぎといい、結構ドジな奴である。
 ごくんっ
「え……?」
 すーっと、ウィローの顔から一気に血の気が引く。飲んでしまった……?
 しまったあぁぁーっっ!!
 叫びは声にならなかった。
 ――ぽむっ
 薄い煙が、ウィローのいる場所から立ちのぼった……。


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