WILLOW PATTERN


 それはもしかすると、夢みた日々……。


 波の打ち寄せる音。夜の海岸。今夜はよく晴れている。
 そこにみんなが集まっていた。自分にとっては、久しぶりに彼らと顔をあわせたことになる。
「なぁ〜んで、オラたちまでいなけりゃならねえんだべ。おめ、立場を忘れとるんでねえだか? なあ、トットリ」
「そうだわいや。僕達が刺客だってことを忘れてるんだらぁか?」
 不本意そうに、けれど実はそれなりに嬉しそうに言い募る二人組。彼らは以前からずっと親友同士だ。
「来ておいて何を言ってやがる。仕方ねえだろ、パプワがやりたがったんだ! ギャラリーは多いに越したことはないんだから」
 腰に手を立てて、長い黒髪の青年は二人を見やる。
「おまえらでも、少しはにぎやかしの役には立つからな」
 彼らはぐるりとかつての仲間を見回した。星明かりで随分と明るいから、充分に相手の顔は判別できる。
「言っとくが、今日は諸々の事情は忘れとけ。いいか、今日だけ停戦だぞ! これに乗じて内輪もめなんかしやがったらぶっとばすぜ」
「判っとるべ。何なら生き字引の筆を外すべさ」
 刀剣用の鞘を背負った青年が、ヤシの木の根元にそれを置いた。
「僕はミヤギくんの言うとおりにするっちゃ」
「あのぉー……ところで、シンタローはん」
 自分がその肩に乗せてもらっている青年が、おずおずと呼びかける。その手には、前もって渡された仮面。
「何だよ? アラシヤマ」
「……やっぱりわてがオニなんどすか……?」
「ったりめーだろ。おめー以外に誰がオニをやるんだよ」
 当然、といった顔で、訊ねられた方はあっさりと答えた。
「………。ええんどすええんどす、どうせわてははみだし者なんどす」
 すねた口調が、自分の耳元で聞こえる。
 ふと、月のない夜空を仰ぐ。
 漆黒に近いミッドナイトブルーを埋め尽くす、たくさんの星。その輝き。
 自分がかつて見慣れていたそれは、いつも薄く煙っていて、こんな冴えた夜空など、考えも及ばなかった。これが、本当の星空……。
 圧倒されるような星の群れ。見たことのないその星図はあまりに鮮やかすぎて、恐怖すら覚える。
「――……」
 呑み込まれそうな幻覚に、傍らの青年の髪にきゅっとしがみつく。
「……どうしはりました? ウィローちゃん?」
 左肩にいる自分に、彼は穏やかな眼差しを向けた。手を伸ばし、抱き寄せるように撫でてくれる。柔らかく微笑う彼が、ただ人付き合いに不器用なだけで、本当はとても優しい心の持ち主だということを、自分はずっと前から知っていて……。
「シンタロー! まだか? 早く始めろ!!」
 少年の声が、澄んだ空気に響いた。
「はーいはいはい! んじゃ、始めようぜ。準備はいいか?」
「わーい、豆まき豆まきー。ぼくとチャッピーはいつでもいいぞー」
「オラたちもだべ」
「テヅカくん、ウィローちゃん、どいとっておくれやす。危のうおますよってな」
 言われて、ばさりと羽を広げ、空中に飛び上がった。自分を慕ってくるコウモリと手をつなぎ、みんなを眺める。
 そうだ、自分はこんな風に過ごしたかったのだ。こうやって、もう一度みんなで……。


 ずっと夢みていた日々。遥かな憧れの地。


 南の島のパーティー・ナイト――。



>>>取説NovelTOP