LITTLE WIZARD〜Prologue


 名古屋ウィローは草地の真ん中に立っていた。
 舞い起こった微風が、まとったマントをわずかに揺らす。さわりと、風に草の葉が鳴った。
 魔法力を授かる者にとって力の源とでも言うべき月は、冴々とした光を投げかけている。都合のいいことに、今日は満月だ。
 時刻は午前二時――真夜中。魔法使いとして、最もその血が騒ぎ立てる時間。
「ここが……パプワ島……」
 ウィローはぽつりと呟いた。
 脱落者をまとめて始末しろとの総帥命令を承け、けれど一つの決意を秘めて、彼はこの島にいた。
 絶対服従であるはずのガンマ団に対する、明らかな叛逆とさえ呼べる、決意。
 ……ここにみんながいる。今は遠い、喪われた日々、ある意味で純粋に楽しかった日々を過ごした『仲間』たちが。彼らと再び、今度こそはいつまでも一緒に暮らせるように――その為にこそ、ウィローはパプワ島にやってきたのだ。殺す為ではなく、救う為に。
 もう少しだ……もうすぐ。
「みんなに会えるんだぎゃ……」
 感情が昂ぶって泣いてしまいそうになり、ウィローはぐっと口元を引き結んで、皓々と照り映える月を見上げた。
 感傷に浸っているゆとりはなかった。己の魔力が最大限に引き出される今夜のうちに、早く手を講じなければならない。
「待っとりゃあせ……まあじきワシ行くでよ」
 ウィローは視線を前方に向けなおした。
 その先に、パプワハウスがある。おそらく、シンタローはぐっすりと眠っているはずだ。
 まずは、シンタロー。それからアラシヤマの元を訪れ……彼なら多分、一蹴したりせず、同じ目線の高さでウィローの言い分に耳を傾けてくれるだろう――最終的にそれを是とするかどうかは別として。コージもそうだ。そして、最後にトットリとミヤギ……。
 着衣に忍ばせた魔法薬の小さな壺を、確かめるように探る。この中に入っているのは、人間をコウモリに変えてしまう薬だ。自然解除されないように効果は最強に調整してある。
 ウィローはもう一度己の決意を声に出さずに復唱した。
 これをみんなに飲ませ、そして、その存在すら誰もが忘れてしまうまで、自分は彼らを守ってここで生き続ける。昔自分を護ってくれた優しい彼らを、変化が解け元に戻るその時まで、今度は自分が護りきってみせるのだ。きっと大丈夫……もう独りではないから。
 深呼吸して、ウィローは下草を踏み分けて歩きだした。
 自分は何もかも捨ててきたから。だから、遼かに夢みたこの南の島で、もう一度みんなで初めからやり直そう……。
 もうすぐ全てが終わり、そして始まるのだ――。


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